砂漠が街に入り込んだ日 ダカ・ハン

 フランス語の小説を読んだのは初めてだと思う。筆者のダカ・ハンは韓国出身で、フランスに移住して7年が経つ時期にフランス語で本書を執筆したらしい。バイリンガルと言うのは憧れるものである。

 8節からなる本書は全て主人公が違うが、どこかからどこかへの「移動」というものを共通点としている。砂漠がある街に電車で向かう女性、知らない部屋で目覚めて風が通る隣室を開ける者、家出を試みて川の向こう側へ渡る少年、焦がれる人の置かれた乱気流へ身を投げ出す少女など。筆者のあとがきを読んでやっとこの共通点に気付いた。

 1節目のルオエスは韓国の首都ソウル「seoul」を逆から読んだ名前になっていて、ソウルとの並行世界として描いたそうだ。砂漠が街はずれまで入り込み、主人公は陰気臭いマクドナルドのバイトをバックレてルオエスの砂漠へ向かう。「砂漠はいつからやってきたのだろう?私がこの問いを投げかけると人は決まって何らかの前か後だと答え、そのたびに私は途方に暮れてしまうのだった。」本の題名、裏表紙に書かれたこのセリフの中の砂漠は、各章で姿を変えて主人公を翻弄する。

 推理小説以外は精巧なトリックではないと思う。単純に自分が作者だった場合、そんなの一一考えるかって―の笑、みたいな気持ちを込めて。勝手に期待するのは良くない、翻弄され続ける羊みたいだから。考えるのが楽しいならばそれはそれで良いと思うけどね。私は難しいことを考えると死んでしまうので、それを読んだ後の波の余韻をただ心の海に返して静めている。

 なんか疲れてきたので感想文はここまで。訳された文章なのでかなり読みやすかったです。比喩表現も豊富でとても良かった。ありがとう本がこの世に存在してくれて。